身近な食べ物のお話
秋の食べ物
しめじ里芋蓮根秋刀魚



 
 しめじ

 20年くらい前の話になるが、奥穂高に旅した時「ホンシメジ」を食したことがある。ひなびた山奥の一軒宿の夕食に出されたのである。

 その日ちょうど宿の主人が山に採集に行った折みつけたものだそうで、その頃でもめったに見つからない珍しいものになっていた。泊り客も少なかったので、夕食の膳になってでてきたようだ。

 その日にあったことをたわいもなくしゃべりながら、旅仲間と夕食の膳をつついていたが、このホンシメジを口の中にいれてとたん三白眼になって顔を見合わせた。お互い「何これ?」というびっくりした表情。

 何とも表現しがたいおいしさ。口の中に広がる芳香。今だに忘れられない味だが、それから現在まで「ホンシメジ」には再会できずにいる。

 一般に「シメジ」として売られているものはヒラタケで、「ホンシメジ」の名で売られているものはブナシメジである。

 「香りマッタケ味シメジ」と称されたのはホンシメジのことで、これは栽培ができないので一般の食卓にのぼることはほとんどない。マッタケ以上に手に入りにくいものである。

 ヒラタケ、ホンシメジともに、成分の90%は水分で、タンパク質が3%、炭水化物が5%ほど含まれている。目をみはる様な栄養成分はないので、ひと昔前までは注目されなかったが、最近は、低カロリー食品、食物繊維の宝庫として脚光をあびている。
料理法としては油料理が合う。
バターいためなどは美味だし、またきのこ独特のうま味は、火を通すことで生まれてくる。しかし弱火でゆっくり煮含めると身がやせてうま味がなくなるだけでなく、せっかくの歯ざわりもなくなってしまうので御用心



 
  里芋(さといも)     

1年中出回っていますが旬は8月の終わりから9月です。稲作以前は里芋が主食だったと考えられる習慣がいろんな地域でのこっています。日本人にとっても、インドネシア、ジャワ島などの太平洋の島々の先住民にとっても重要な食料だったのです。

 奈良時代にはすでに栽培されていたことが文献に残っており、山芋に対して里に植えられていた芋、というのでこの名前がつけられました。サツマイモやジャガイモの渡来以前は重要な飢饉食だったようです。

 歴史の古い野菜だけに、日本各地のお祭りや行事食と結びついて、日本人の生活からは切り離せない食材です

 親芋に小芋、小芋に孫芋ができることから、子孫繁栄のおめでたい食べ物とされています。里芋の中でも「ヤツガシラ」は、世間に出たら8人の頭くらいにはなるようにとの意味がこめられているそうです

 西日本では正月の料理やお供え物に使われ、中秋の名月のお飾りにも里芋は欠かせません。東北地方で今でもこの時期よく行われる「芋煮会」とは、新の里芋が出始めるころ、気のあったもの同士で川原に出かけ、大鍋に里芋、こんにゃく、ねぎ、牛肉などを放り込んでグツグツ煮込んでみんなでつつきあうもので、私たちの生活と里芋が深く結びついていることを物語っています。私の職場にも東北出身者が何人かいて、紀ノ川の川原で関西風芋煮会をして親睦を深めています。いろんな食べ物が収穫できるこの季節、野外で採れたてのやさいの入った大鍋をつつくのは栄養的には最高で、また気分のリフレッシュにもなります。里芋の葉柄であるずいきも厚揚げなどと煮込むとおいしいものです。

  里芋を使った簡単、おいしい一品を紹介します。 
「里芋のから揚げ」外側はカリッとして中はホクホク。子供から大人まで人気メニューです。
 作り方は簡単。皮をむいた里芋にから揚げ粉をまぶして揚げるだけ。煮っ転がしの残りがあればそれでもいいのですが、わざわざ煮てから揚げる必要はありません。ゆでただけの里芋でも生の里芋でも、それはそれなりにおいしいのです。柔らかいのがお好きならゆでた里芋で、固目が好みなら生の里芋でお試し下さい。


 蓮根(レンコン)

レンコンはスイレン科、多年生の水生植物「ハス」 の地下茎で、数千年前から世界各地で栽培されています。そのため、ハスにまつわるエピソードや物語はあちこちにたくさん残っています。千葉県検見川で見つかった二千年前のハスの種は、大賀博士の手でよみがえり、美しい花を咲かせたという話を覚えている人もあるかと思います。ハスはこのように生命力が強く種子の数が多いことから、民族の繁栄を築き、生命力を生み出す象徴とされています
 
日本では、穴が開いているので見通しが利くということに因み、正月やその他の祝い料理に使われる縁起野菜とされています。中国ではレンコンの根茎だけでなく種子や節まで、料理に使うだけではなく薬としても使います。 根の部分にはビタミンCが豊富で、ミカンの1.5倍、大根の3.7倍に相当する量が含まれており、レンコン100gを食べると1日に必要な量がまかなえます。また野菜としては珍しく、貧血を予防し、肝臓の働きを助けるビタミンB12の含量が高く、ミネラル成分の亜鉛、銅、鉄を多く含んでいます。
 レンコンのさくさくした食感を生かした料理として、てんぷら、酢バス、五目ずしの具、煮物、キンピラなどがおなじみです。あくが強く変色しやすいので切ったらすぐに酢水につけましょう。鉄製の鍋で調理すると、酸化して黒くなってしまうので厳禁です。
 日本ではあまり使いませんが、中国では種子を「蓮子:レンシ」と呼び、さまざまな料理や薬として使われています。生命力を養い精神を安定させる作用があるとされており、日本でも最近デパートのエスニック食材などを扱っているコーナーなどでよく見かけます。湯がいて柔らかくしておくと栗のような味と食感で、なににでもつかえて便利です。一番一般的なのはおかゆの中に入れる「蓮子粥」ですが、ひろうすの中に入れたり、銀杏の代わりに茶碗蒸しの中に入れてもおつな味です。中国や台湾旅行のお土産に蓮子の砂糖漬けをもらって知っている人もいるでしょう。蓮の葉は食用には使われませんが、解熱や吐き気を抑える薬用として、またもち米の蒸し物などの料理に使われます。
 
こんな風にレンコンは、私たちの日常の暮らしの中にすっかり溶け込んでいます。今から冬場にかけてレンコンの季節です。大阪には門真:かどまという産地が控えていますから大いにレンコン料理を楽しんで下さい。


  秋刀魚(さんま)

秋刀魚は回遊魚で、夏から秋にかけて、北海道から三陸、さらに南に移動します。そのため夏の終わりから晩秋にかけて獲れる秋刀魚が、一番油がのっていておいしいのです。一般に食用とされるようになったのは江戸時代のころからですが、1939年に秋刀魚が光に集まる習性を使用した漁法が開発され急速に普及し、大量に市場に出回るようになりました。「秋に獲れる刀に似た魚」という意味でこの名がつけられたそうです。
 私個人の秋刀魚にまつわる思い出ですが、小学生の頃は、よく扁桃腺を腫らして高熱を出し、月に3日くらいは学校を休んだものです。さすがに高熱のある時は何も食べられないのですが、熱が下がると急におなかがすいて、母が「何食べたいのん?」って尋ねてくれます。そのたびに、「おかゆと秋刀魚とほーれんそうのおひたし!」と答え、その通りのものが出てくると、いつもの食卓ではなく、布団の中で、お盆に載って出てくる病人食をむさぼり食べたものです。食べ終えると、とたんに回復力が付いて、嘘みたいにけろりとしてまた学校に行く、ということを繰り返していました。
 秋刀魚が無い季節に熱を出したときは、何を食べたのか全く覚えていないのですが、秋刀魚だけには不思議な愛着があります。日本人であれば誰しも、秋刀魚にまつわる思い出を多少なりとも持っているのではないでしょうか?夏の暑さが一転して、涼しい秋風に代わる頃、庭先で七輪を使って秋刀魚を焼く景色は、今はもう見られなくなった日本の風物詩のひとつです。
 「おいしい秋刀魚の選び方」で「くちばしの黄色いものを選ぶ」ということを知ったのは10年くらい前のことでしょうか?最近は冷凍の技術が進歩して、品質のよい秋刀魚が年がら年中店頭に並んでいますが、くちばしの先がはっきりした黄色のものはやはり旬の生でないといけません。このほかの目安として、頭をもった時に垂直に立つものがいいのですが、店先で秋刀魚を持って逆立ちさせると、ぐにゃっとしていても買わないと気まずい雰囲気ですので、やはりくちばしの色を目安に購入するのが良いでしょう。
 10年位前から魚の油が、脳卒中、動脈硬化、心筋梗塞、狭心症などの予防に効果があるとされ注目を浴びています。魚の油の中でも「DHA」や「EPA」が有効で、これらは背の青い魚に多く含まれているということで、秋刀魚、鰯、鯵、鯖の人気が高まっています。また、DHA には脳細胞を活性化する作用があることから、ぼけ防止、成長期の子供にもおすすめです。こんなに健康によいのだからと、最近ではサプリメントになった魚の油を薬局やスーパーの店頭、あるいは通信販売の広告で見かけます。ところがこの「DHA」や「EPA」はとても酸化されやすい油で、長時間の加熱調理や、古くなった魚を食べると逆に体には良くない作用があります。油の乗った鰯や秋刀魚が古くなると油のすえたような独特の臭気がします。これが酸化した油のにおいで、もちろん体にいいはずありません。体のさびつきを引き起こし、老化現象が加速されます。活きの良い新秋刀魚を新鮮なうちに調理して食べるのが一番です。体にいいからとむやみやたらと青背の魚ばかり食べ、あげくの果てにはサプリメントまで飲んで魚油漬けになってしまうと逆効果です。何事も「過ぎたるは及ばざる如し」です。
 秋刀魚だけではなくこれからの季節、美味しいものがたくさん出回ります。