漢方の話
漢方薬草の栽培環境
  20年位前に、早春の雪に閉ざされた一軒やどの温泉を訪ねたことがあります。雪深い山村だけに、温泉は冬季閉鎖されていましたが、御主人をなくされた初老の女将さんが、思い出の宿を立った一人で冬場も守っておられました。当然病気になってもお医者様にかかれるわけはなく、自分の健康は自分で責任をもたねばなりません。

雪が降るまでに冬場に使う薬草を採集して、囲炉裏の周りにいっぱいつるしてありました。自分で使う薬草は、できるだけ高い山の中で採集するそうです。高度が高くなればなるほど草丈は短く、採れる量も少ないのですが効き目は良いそうです。なるほどと思いました。

 いま私たちが使っている漢方薬や生薬は、ほとんどこんな良品はありません。形だけは名前のとおりのものができていますが、促成栽培、化学肥料、ひどいものでは農薬も使用されています。今の食卓と同じ状況なのです。せっかく高価な漢方薬を煎じて飲んでも効果がないのは、実は漢方薬が効かないのではなくて、昔から使われていたものと中身が違う可能性もあります。

 本当の漢方の作用、生薬の効果を得ようと思ったら昔の品種を正しい栽培方法で育てたものを使わないと効かないかもしれません。

 漢方薬の研究の傍ら、絵を描いていますが、こちらのほうでも昔の筆は大変丈夫で強い線が引けたのですが、今の新しい筆はだめです。筆職人の人に聞いてみると、昔の動物は自然の中を走り回って自然に生える植物を食べていたけれど、いまの動物は合成飼料を食べて、檻のなかでじっとしている生活ですから、毛も弱くて筆造りに適した良い毛が手に入りにくくなったそうです。

 健康を維持し、病気になったときにも適切な薬を手に入れようと思ったら、環境を守り、自然を大切にすることが重要かもしれません。逆に、そういう環境が維持できれば、難しい病気ももっと少なくなるでしょう。
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