やま芋


ヤマイモは、長形種のナガイモ群、偏平種のイチョウイモ群、塊形種のツクネイモ群があって、すべて中国原産。山野に自生するジネンジョは日本原産でヤマノイモと呼び、現在では入手困難。

何年も前に泊まった山の中の一軒宿の温泉で出された夕食の汁物の中にジネンジョをすりおろしただんごがはいっていた。強い粘り気があり、もち米だんごだとばかり思っていたが、ヤマノイモと知ってびっくり。それまで市販品の水気の多いヤマイモしか知らなかったので、汁の中でだんごになるなんて信じられないおいしさ。

 三重県の美杉村に農地を買って足しげく通うようになって、地元の農業祭などでこのヤマノイモとはよく出会うようになった。長い立派なものだと一本一万円くらいする。近所の人がたまに山仕事の帰り道に「掘ってきた」と言って置いていってくれる。栽培品より細いので、皮をむくとますます細くなる。おろし金でおろすと、もり上がってだんごのような形になり、しばらくそのままおいておくと、紫色のあくがでてきて、見た目はきたならしいが特上の美味。

 ヤマイモはその形からいろいろな種類に分けられるが、土壌の質と水量で味と形がきまる。即ち砂質や火山灰質の土壌では肉質の荒い大味な芋になり、粘質な土壌では粘りがあってこしの強い芋になる。雨が多ければどんどん伸びて棒状になり、雨が少ないとイチョウ形かばち形が多くなる。店頭でいろんな形のものが並んでいるが、種類が違うのではなく栽培条件の違いでこんなにも差がでてくるそうだ。

 ヤマイモのことを別名「ヤマウサギ」とも呼ぶ。これはヤマイモを食べると精がつくといわれているためで、漢方薬でも「山薬(サンヤク)」と呼ばれ、滋養強壮作用をもつ薬として使われている。

 昔から、とろろに麦めしは何杯食べても腹をこわさないといわれていた。ジャガイモとか小麦とか普通のでんぷん類は加熱しないと消化が良くないのだが、ヤマイモにはでんぷん分解酵素のジァスターゼがたっぷり含まれているため、むしろ生食の方が消化がいいくらいだ。ヤマイモに含まれるジアスターゼは大根とは比べものにならないほど多く、いっしょに食べた他の食品の消化も助けるほどだ。

 またジネンジョのつるにはムカゴという小さな芋がつく。昔の人はよくごはんにいれて炊き「ムカゴ飯」といって老人の健康食とされた。ヤマイモもムカゴもでんぷんと良質のたんぱく質をたっぷり含み、また根菜類に多いミネラルの含有量も高い。

栄養価と効用の点では、ナガイモよりもイチョウイモ、ツクネイモ、ジネンジョと粘りの強いものほど価値が高いことは言うまでもない。