食物の味


★小島政二郎氏の名言

平成6年に100歳でなくなられた文壇最長老の流行作家、小島政二郎(こじままさじろう)氏は食通としても有名で、著書の随筆集『百叩き』の中の1章に「大薬小薬論」があり、「医薬は人生の中できわめて短時日しか使用しないものであるが、食物は毎日食べているので、人の健康上から見ると、薬のほうが小薬で、日常の食物こそ大薬である」と述べられており、食養の重要性を明確に言い当てておられます。
体に合った食材を選んでも、おいしく食べることができなければ毎日食べることが苦痛になってしまいます。ここで、調理方法と同時に味付けが重要になってきます。

★食物の味「五味」

薬膳では食べ物の味を五つに分けて考えます。即ち、甘、酸、辛、苦、鹹(しん・・・塩辛い)で、五味はそれぞれに対応する臓器を養い、逆に一味が強すぎると別の臓器を害します。

○酸味・・・肝を養うが脾胃を害し胃を弱くする。
○苦味・・・心臓を養うが、肺・大腸を害し、風邪をひきやすくなる。
○甘味・・・脾胃を養うが、腎・膀胱を害し、むくみがでる。
○辛味・・・肺・大腸を養うが、肝胆を害する。
○鹹味・・・腎臓を養うが、心・小腸を害し血圧を上げる。

このように五味のうちの一味ばかりを使いすぎると生じる弊害を修正するために、酸味には甘み、苦味には辛味、甘味には鹹味、辛味には酸味、鹹味には苦味という具合に二味を組み合わせ味の調整を図ります。これが二味の組み合わせの基本的な原則です。

★二味の組み合わせの原則

酢の物に砂糖や蜂蜜を加えると、強い酸味の刺激が中和され、味に丸みが出てきます。また、辛子の強い刺激をマイルドにするために、中国料理でも日本料理でも食酢でといているし、強い甘味を抑えるために、隠し塩といって少量の塩を使うと返って甘味も引き立つことは、日常の味付けで経験しています。伝統的な調味の仕方というものはこのようにちゃんと薬膳の理論にのっとったものなのです。

塩の摂りすぎや食塩の害については、すでに広く知られており、戦後の日本人の死亡原因のトップであった脳卒中も、薬剤の開発と塩分制限からずいぶん改善され、死因ナンバーワンの汚名から退きました。ここでは塩が目の敵にされていますが、戦前までは「苦汁(くじゅう)・・・・マグネシウム塩」を含んだ塩でしたので、人体に及ぼす害は少なかったようです。

これを薬膳の理論に当てはめてみますと、塩の鹹味とマグネシウムの苦味の二味の組み合わせで、塩からみを和らげ塩の害を予防し、同時に心臓に対する悪影響も軽減しました。この時マグネシウム塩は、腸管からの瀉下作用によって心臓・小腸の負担を軽減し、腎臓の機能の代役を努めるという効用を持っているのです。

現在、専売公社から販売されている塩化ナトリウムだけの化学薬品としての塩は、塩からみが強すぎるのでそれを緩和するためにこれまた化学薬品のような精製白砂糖や化学調味料を添加することになり、ますますそれを食べた人の健康に悪影響が広がります。

酒は百薬の長といわれていますが、漢方では辛味の食材とされており、単独で飲みすぎると肝臓を害し、血圧を上昇させます。これを防ぐには酸味の酢の物を配合すると体を益します。ご主人の晩酌には、小鉢に盛った酢の物を一品つけてあげてください。

甘味のぜんざいや汁粉を食べ過ぎると小便の出が悪くなり、むくみがでますが、塩昆布などの鹹味の食材を一緒に食べると弊害を緩和できます。

このように、味の調和を図ることで、各々の食材が体内でより有効に働いてくれることを知って調理することも大切なことです。