薬の話


アトピー性皮膚炎の患者は最近増加の一途をたどり、治療薬や症状を抑制する為の様々な抗菌グッズなるものが店頭にあふれています。
高だか30~40年前、不衛生な環境の中、駄菓子屋で雑菌まみれのおやつを買って食べていたときはほとんど見られなかった症状です。

町が清潔になり、衛生環境が改善されるにつれ逆に増えてきました。人間は自分達の住環境を整える為、他の生物を排除する方向で文明を進化させてきました。ヒト以外の生物にとって地球上での生活環境は年々厳しくなって来ています。

しかし、我々人類はたかだか200万年程度の歴史しかないにもかかわらず、菌類は36億年前から生きつづけています。当然生物としての生存権は彼等の方に利があります。彼らは氷河期の過酷な環境の中で生き延びる為、自分の体の中の遺伝子を組み替えて環境に適合しながら生き抜いてきたのです。

人類がこの先どれくらい地球上に生き残る事が出来るのかわかりませんがとても菌類には及ばないでしょう。ヒトにとって有害な菌類を殺す為の抗生物質の開発競争にはめまぐるしいものがありますが、菌類の方もやられてばかりでは有りません。抗生物質に耐性を持った新しい菌類の誕生を促します。

最近また、結核菌やぶどう球菌などによる感染症が増える傾向にあり、とくに病院内で感染するケースが目立ち、医療現場での大きな問題になっています。このように人類の医薬品開発は、いつの時代もいたちごっこやもぐらたたきに終わってしまっている一面があります。

これに比べ天然の生薬や漢方薬は、数千年の昔からヒトと共存して使われてきたものだけにヒトの意思や力が及びません。そのため逆に、ヒトに優しい効果をもたらす一面もあります。

西洋薬と漢方薬の効果を比較するため、アトピー性皮膚炎をネズミに発症させて実験してみました。方法は、ネズミに耳が痒くなる症状を作っておきそこに色々な薬を投与します。結果の判定は30分間ネズミが何回耳を掻いたか、その回数を数えるのです。当然掻く回数が多いほど症状がひどいということになります

西洋薬のジフェンヒドラミンは、脳の中枢を抑制してかゆみを起こさせないようにする薬で、切れ味が良くスパッと効いてきます。(グラフ参照)


たて軸の数字は、30分間にネズミが目をかいた回数

個々の個性や体質は違うのに、余りにも単一的な効果に、返って不自然で恐ろしい気がします。対照療法的に短期間使うのはがまんできますが、慢性疾患に長い期間使用するのは抵抗があります。その証拠に、この実験で長期間西洋薬のジフェンヒドラミンを飲ませ続けると、痒みは治まりますが体重が減少し、毛並みもぼろぼろになってきます。それに比べ、漢方薬の黄連解毒湯(おうれんげどくとう)、温清飲(うんせいいん)、消風散(しょうふうさん)は痒みを抑えながら全身症状も整えます。

体に異常がでたときに使う治療薬は「異常細胞や臓器にのみ反応し、正常細胞には影響を与えない薬」というのが理想なのですが、人間がその時の都合に合わせ人工的に作った合成医薬品が正常細胞と異常細胞を見分けて、異常細胞だけに反応することはありません。例えば、現在使われている西洋薬の抗癌剤を投与すると、薬が治療箇所で癌細胞だけを殺すと言うことはありえないことで、当然正常細胞にまで障害を与えてしまい、その結果様々な副作用がでてきます。

ところが漢方薬や生薬、天然物の中にはこれらの常識をくつがえす作用のあることが実験結果で分かってきました。

没食子酸はお茶やその他の植物に多く含まれるタンニンの一種で、濃度が高くなると生きた細胞に毒性が現れます。シャーレで実験的に繁殖させている癌細胞にかけますと、10ug/ml位の濃度で癌細胞は死滅します。ところが同じ細胞でも正常細胞である肝臓の細胞や線維芽細胞では50ug/ml(5倍の濃度)でも毒性は現れません。

即ち没食子酸は相手によってその反応性が変わるのです。西洋医学の薬ばかりを扱っているとこういう減少は見られません。永年捜し求めていた理想の薬は人力をもって作り出さずとも生活の中の身近なところにあったのです。これこそ「燈台もと暗し」です。

体に不快な症状がでると、ヒトは直ちに、完全にその症状をおさえこむ薬を求めますが、ここで少し考えて、その症状が出た原因をみつけ出し、それをとり除くことが先決です。安易に症状をおさえこむことだけに熱中して薬に頼る生活を改めたいものです。