酸味を考える


 東洋医学では、すべての食材や薬として使用する薬剤(生薬)を五味五性に分類し、食べる人の体質や病状にあわせて摂り入れる食材や薬剤を選択する方法を解説しています。
五味とは、酸味、苦味、甘味、辛味、鹹味(しおからい)で、これらは口に入れたときに舌で感じる味、という以外にその食材や生薬の持つ性質をあらわしています。今回のテーマとして取り上げる「酸味」は、収斂・固渋・止瀉などの効果があるといわれています。すなわち、固めたり引き締めたりする作用です。レモンや梅干しなどの酸っぱいものを食べたとき、思わず体が震え、口がすぼまります。これは気や陰液が体から漏れださないようにする働きで、収斂作用といい、酸味のある食材や生薬に特有の作用です。実際の症例として適応されるものに、尿漏れや頻尿・多尿、出血性の疾患、汗腺が緩んで汗が多量にでる症状(寝汗)があり、漢方では酸味のある生薬(五味子・山茱萸・酸棗仁など)が処方されることがよくあります。
酸味のある食材や生薬の成分は主にクエン酸で、私たちの体のエネルギー生成や疲労回復に重要な働きをしています。体の中に入った炭水化物、蛋白質、脂質といった栄養素は体に取り込まれてからクエン酸サイクル入り、この中で細胞が活動するエネルギーとなるATP(アデノシン3リン酸)を作り出します。このクエン酸サイクルが正常に機能することによって疲労物質の「乳酸」が分解され、疲労回復に効果を発揮します。このほか、クエン酸の効用として①ミネラルの吸収を助ける ②新陳代謝を活発にする ③活性酸素を消去する抗酸化物質の働きを助ける などがあり酸味としてとり入れられたクエン酸は体内に入って重要な働きをしています。
日ごろから疲れやすい人や、クエン酸の効用を摂り入れたい人は、大いに酸味のある食材(クエン酸を含む食べもの)を普段の食卓にとり入れるべきです。

五性とは、食材や生薬すべてにわたって体を温めるものか冷やすものかに分け、その働きの強弱によって、寒性、涼性、平性、温性、熱性の5つに分けられています。現代医学の中心は西洋医学で、この西洋医学には、「体を冷やす食品、温める食品」という考え方は存在しません。東洋医学で重要な病状として取り上げられる「冷え性」という概念も西洋医学では症状の定義すらはっきりと定まってはいません。「食べ物や生薬で体が冷える、温まる」という考え方は、中国医学やアーユルウェーダーなど東洋医学的な考え方なのです。
「酸味」は涼性の食材で、体を冷やす作用があります。夏の暑いときに酸味のある食材や生薬を適量摂ることは、体内の熱気をとるためには必要でしょうが、摂りすぎると脾胃を痛め、冷えからくる症状が出る恐れがあります。

酸味は体を冷やすとされていますが、どんな食材が体を冷やすのでしょう?

体を冷やす食材の特性

1 食材そのものに利尿作用があるもの
 水分が多いものや暖かい地方でとれたもの
青白緑の食べもの 
カリウムが多い野菜果物
2 食材中のたんぱく質の含量が低い 
食べ物を食べて消化吸収するときに一過性に体温は上昇する。栄養成分の中でもたんぱく質は、摂取後の体温上昇率が高い。たんぱく量の少ない食材は食後の体温上昇率が小さい。
3 たんぱく質の消化阻害因子を含む食材  例:ソバ、茄子、大豆など
 たんぱく質を消化吸収するときに体温は上昇するが、たんぱく質の消化を阻害すると体温の上昇は抑制される。食材の中にたんぱくの消化を阻害する成分が含まれているものは、食後の体温の上昇は小さい。(膵臓から分泌されるたんぱく質の消化酵素であるトリプシンの活性を阻害する成分を含むため、ソバ、茄子、大豆などは食後の体温上昇は小さい)

酸味好きな人の性格

苦味の好きな人は周りの人に厳しく、批判的なタイプが多い。
シトラス味(オレンジのような酸味のきいた味)を好む人は、不安やストレスに追われているタイプ。シトラスの香りが人を安心させる。不安やストレスがあると体が自然とその味を求める。

このほかに普段の食卓で酢を摂り入れる効用として、

○カルシウムを補う
 酢の力で カルシウムの溶出効果を高めカルシウムの不足を補う
水煮に比べ4倍以上カルシウム溶出
ミツカン酢と東北大学の共同研究により、殻付きシジミを煮たとき、水煮に比べ酢を加えて煮たときにカルシウムの溶出量が4.4倍に増え、マグネシウムも1.4倍に増えた
また、酢の主成分の酢酸を実験動物の飼料の中に転嫁すると、カルシウムの体内吸収率、保持力が上昇したという結果も得られています。
○骨付き肉が食べやすくなる
 骨付き肉を煮るときに酢を加えると、酢の酸が骨と筋肉をつなぐ結合組織(コラーゲンやエラスチンからなる)に作用し、加熱によって変性したコラーゲンを溶出させるため、身離れがよくなり食べやすくなる。また酢の作用で肉が酸性になる(PHの値が下がる)と水分の保持性が高まり、肉が柔らかくなります。

東洋医学では、酸味は適度にとると肝によく、とりすぎると脾胃をやぶる。